無実の人が虚偽の自白をしてしまうのはなぜか


一昨日無罪判決が出された厚生労働省元局長・村木厚子氏の「事件」では、複数の関係者が捜査段階で村木氏の関与を認めていたのに公判では一転否定しました。そのことは不可解と思われるのが自然かもしれません。

 村木被告は昨年、大阪地検特捜部に逮捕、起訴された。検察側の主張では、村木被告は04年6月、部下の厚労省元係長、上村勉被告(41)に対し、自称障害者団体「凜(りん)の会」(解散)に郵便料金割引を認める偽証明書を作成するよう指示。厚労省内で同会代表、倉沢邦夫被告(74)に偽証明書を渡した、としていた。検察側は、村木被告の上司を通じて、石井一・民主党参院議員(76)から証明書を発行するよう口添えがあり、厚労省が組織ぐるみで偽証明書を作ったとしていた。

 これに対し村木被告は「全く覚えがない」と逮捕時から一貫して無実を訴えた。今年1月に始まった公判で、証人出廷した厚労省職員7人全員が村木被告の関与を否定。捜査段階で村木被告の関与を認めていた証人からは「事実と違う供述調書に署名を強要された」と特捜部の捜査批判が続出した。

(中略)

 検察側は、関係者が村木被告の関与を認めていた捜査段階の調書43通を証拠請求したが、横田裁判長は5月、「取り調べに問題がある。あらかじめストーリーを描き、検事が誘導した可能性が高い」として、上村被告の全調書など主要な34通の証拠採用を却下。村木被告の無罪判決は確実とみられていた。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100910k0000e040062000c.html


村木氏の「事件」以外にも、冤罪はいくらでもあるようです。
足利事件」などについて「裁判で一所懸命に無実を主張するのに、捜査段階でなぜ自白したのか?」と思うことがありましたが、その疑問に答えてくれたのが6月1日に放送されたNHK爆笑問題のニッポンの教養」でした。
http://www.nhk.or.jp/bakumon/previous/20100601.html
http://blog.hirc.aoyama.ac.jp/takagi/?p=173


「刑事裁判における自白や目撃証言の信用性評価」がテーマでしたが、出演した青山学院大学教授・高木光太郎氏の発言の要点は、以下のとおりです。
<無実の人が誤って逮捕される原因>
「目撃者の『犯人の特徴』の記憶が誤っていることがある」
「自分が体験したときの意味づけで記憶は決まる」
「記憶はいろいろなものの影響を受けて変化する」
<無実の人が自分の犯行を認める要因>
「最大の要因は、『自分の言うことを信じてもらえない状況』に我々が意外に慣れていないこと」
「何度も『本当ですか』と訊かれ続ければ、そこで普通は立ち去るなどして会話が終了する。取調室では、それができない」
「無実の被疑者は犯行を『やっていない』、取調官は『やった』と前提が異なる。これは会話ではない。話がかみ合わない」
「よく『虚偽自白は異常な心理状態』と言われるが、異常ではない。状況が異常なのだ」
「人間は直近の危機的状況からの脱出を優先しがちなので、『取調官はおかしいから、裁判で』などと事態の打開を先送りする」


しかし、高木氏は、ツイッターで以下のようにも述べています。

これまで警察の行き過ぎた取調べが生んだ虚偽自白を主に分析してきたが、取調官個人は多くの場合、被疑者を真犯人だと信じて(信じようとして)取調べに臨んでいた。これも許されないことなのだが、一連の検察主導の事件は構図が違うようだ。意図的な情報操作に法心理学ができることはあるのか。

http://twitter.com/tkg3/status/24087422996


検察が村木氏を逮捕したのは、民主党参議院議員・石井一氏を標的にしたためだったのでしょう。
民主党代表選挙に立候補している小沢一郎氏の秘書らが逮捕された「事件」も、検察による意図的な捜査と指摘する声があちこちから上がっています。小沢氏の贈収賄での立件を狙って、秘書らを「政治資金規正法の虚偽記載」を口実に「別件逮捕」したが贈収賄の事実がなく、検察の体面を保つためにそのまま政治資金規正法違反で起訴したのでしょう。
どちらも「民主党の大物議員本人を立件できなくても、彼らの政治生命を絶つことができれば良い」と検事たちが考えていた疑いがあります。小沢事務所と同様の政治資金規正法違反は、自民党の複数の議員にも見られるからです。


事務次官候補とも言われていた村木氏は、5カ月以上も勾留され、休職を余儀なくされました。大変な人権侵害です。
小沢氏は、昨年総理大臣就任目前で代表辞任に追い込まれ、現在も「推定有罪」の世論の前に厳しい状況にあります。検察(およびマスメディア)により民意が歪められたことは、民主主義を危うくしています。
週刊朝日編集長・山口一臣氏は、「特捜検事は在任中に大きな手柄を立てれば組織内での出世はもちろん、退官後も大企業の顧問に迎えられるなど想像を絶するメリットがあるといわれています」と指摘しています。
http://www.asahi.com/national/update/0904/OSK201009040094.html
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100910/trl1009101921028-n1.htm
http://www.the-journal.jp/contents/yamaguchi/2010/09/post_96.html


自分たちの利益のために他者に濡れ衣を着せようとする検察に、強い憤りを感じます。
それでも、検察の暴走を止めることは難しいようです。政治家による統制を認めないのであれば世論を変えるしかないので、このブログで取り上げていますが…