なぜTPPは危険なのか(5)


21〜23日の東京新聞の記事「チェックTPP」より。


21日

チェックTPP<4>医療 皆保険崩壊に懸念
(中略)
 Q 混合診療とは聞き慣れない言葉だ。
 A 健康保険が使える保険診療と、保険が使えない新薬や最新の治療法を使った自由診療を組み合わせたのが混合診療だ。日本では原則禁止で、仮に行えば保険診療分も患者が負担しなければならない。厚生労働省は「有効性、安全性が確認できないものに税金や保険料を投入できない」と説明している。
 Q 混合診療を解禁すると、米国にどんな利益があるの。
 A 米国の巨大な製薬会社や保険会社は日本でシェア拡大を狙っている。解禁で保険適用が認められれば、自由診療を利用する人が増えて、高い薬も売れる。高い診療費をカバーするため、民間保険に入る人も増える。
 Q なぜ、皆保険制度が崩壊するの。
 A 政府は保険財政が厳しい中、高額な治療や薬を保険の対象にしにくい。病院や製薬会社が高額の自由診療や最新薬ばかりに力を入れるようになれば、保険で賄える範囲が縮小し、保険制度が機能しにくくなる、と医師会は主張している。
(中略)
 Q ほかに米国が求めそうなことは。
 A 営利企業医療機関の経営に参入できるよう求めてくるかもしれない。日本では医療機関は「営利を目的としない」と定め、株式会社の経営は認めていない。営利企業が参入すれば、高額な自由診療の提供を目指し、混合診療解禁を強く求めてくるだろう。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/economic_confe/list/CK2013032102000148.html

国民皆保険制度および食品安全規制の崩壊は、TPP参加で最も懸念される点です。


22日

チェックTPP<5>自動車 米、日本車流入を警戒
(中略)
 日本の自動車メーカーは米国での現地生産を進めるが、一方で二〇一二年は約百七十万台の自動車を米国に輸出した。日米両政府が環太平洋連携協定(TPP)の事前協議で、米国が日本車に課している関税を当面は維持すると大筋合意したことで、自動車業界ではTPP参加のメリットを計るのが難しいと懸念の声が上がる。
 Q 日米両国の自動車にかかる関税はどうなっているの。
 A 日本が輸入車に課す関税は既にゼロ。これに対し、米国は乗用車に2・5%、大型SUVなどを含む「トラック」には25%の関税を課している。この結果、日本自動車工業会自工会)によると、日本企業は部品も含め自動車分野で年間約九百億円の関税を米国に払っている。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/economic_confe/list/CK2013032202000199.html

日本の自動車メーカーは、自分たちにはメリットがあると考えているようですが、そのメリットは予想より小さなものになりそうです。


23日

チェックTPP<6>関税 利害対立個別に協定
(中略)
 Q そもそも関税って何。
 A 各国が輸入品に対し課す税金のこと。海外から安い品物がたくさん入ってくると、自国の産業がダメージを受けるので、関税をかけて守る目的がある。関税自主権は、国が自ら関税を自由に決められる権利のことだね。
 Q TPPに参加したら関税自主権がなくなるのかな。
 A 失うことにはならない。今は世界的に市場に任せる自由貿易を目指す流れがあり、TPPも原則として関税撤廃を目指すが、各国は維持したい関税を交渉で主張できるからね。ただ、それも交渉次第だ。
 そもそも日本で関税自主権が問題になったのは、幕末から明治時代にかけてのこと。鎖国をしていた日本が開国に踏み切った際に結んだ日米修好通商条約(一八五八年)が、関税自主権のない不平等条約で、一九一一年に回復するまで非常に不利益を被った。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/economic_confe/list/CK2013032302000186.html

交渉次第で、関税自主権を失うことにもなりかねないことは、以下の記事からも懸念されます。


日刊ゲンダイ(19日付け)

 米韓FTAは「TPPのひな型」だ。悪名高きISD条項も盛り込まれている。「投資家が自由な経済活動を侵害された場合、国家を訴えることができる」というやつだ。もっとも、適用されるのは韓国内に限られる。韓国企業が米国内で活動する場合は、「米国の国内法が優先される」と序文にある。つまり、自由な経済活動をできるのは米国企業だけなのだ。韓国はなぜこんな喜劇的な不平等協定を締結したのか。途上国の開発経済が専門の立教大教授・郭洋春氏(経済学)が言う。

「FTAの交渉にあたっていた韓国外交通商部の担当者が内容を理解しきれずに協定を結んでしまった可能性が否めません。韓米FTAは序文と24章から構成されていますが、韓国語の翻訳版からは296カ所の誤訳が確認された。英語の原文はA4サイズで700ページ。2ページに1つの割合で間違えていることになります」
(中略)
「私も韓米FTAの英語の原文にあたりましたが、米国独特の法律用語が多用され、二重三重の言い回しが使われていた。何回も目を通してようやく『米国の国内法が優先する』と書かれていることが理解できました。何人かの学者に確認しても同じような反応です。つまり、英語が堪能なだけじゃ理解できない内容なんです。よほど自由貿易協定に精通していて、高度な法律知識を兼ね備えていないと太刀打ちできない。恐らく、頭でっかちの外務省の担当者は“自分たちは大丈夫。韓国のようにヘマはしない”とタカをくくっているでしょう。そこが決定的に危うい。私は同じ轍を踏むとみています」(郭洋春氏)

http://gendai.net/articles/view/syakai/141535


日刊ゲンダイ(16日付け)

 安倍首相がTPP交渉参加を正式に表明したことを受け、TPP担当の甘利大臣が経済効果の試算を発表した。が、その数字の根拠は参加ありきで見積もられたインチキ。あまりに非現実的な想定ばかりでア然なのである。

 試算では、TPPに参加し、全ての関税が即時撤廃されれば、10年後の実質国内総生産(GDP)が0.66%、3.2兆円増加するという。国内産品が安い輸入品に取って代わられることで2.9兆円のマイナスになるが、逆に輸出が2.6兆円増える。さらに消費者は安い輸入品を買うことができるので、実質的に所得が増えたとみなされる効果があり、消費が3兆円増え、投資も0.5兆円増える。バラ色の試算である。
(中略)
「影響が大きい33品目の農産物は3兆円の損失と見積もられていて、特に砂糖については、輸入品によって国内産が100%駆逐されるという前提です。ただ、そうなると、さとうきび農家は完全に失業してしまう。ところが試算には、失業者の雇用対策にかかる費用などがまったく含まれていないのです。それどころか、『当初1、2年は失業しても、10年後には新たな仕事に就いている』と能天気な想定になっている。そんな簡単に新たな仕事が見つかるわけないでしょう」(農政関係者)

 今回の試算は、関税撤廃だけが対象で、「追加的な国内対策を計算に入れない」とされている。つまり雇用対策どころか、影響を受ける農家へのベラボーな補助金の費用も一切含まれていないのだ。

 そもそも即時関税撤廃というが、交渉を主導する米国では、日本車に対する関税維持を求める業界や議員が強硬だ。保険や医療費への影響も計算外。こんなあり得ない想定で3.2兆円の効果と言われても説得力ゼロだ。

http://gendai.net/articles/view/syakai/141490

食品の安全基準をアメリカに合わせることになれば、医療費の負担は一層重くなるかもしれません。
食糧自給率が低下すれば、人口が増え続ける世界が食糧不足に陥ったとき、いくらおカネを出しても買えなくなることもありえるのですが、そのようなリスクも安倍晋三氏は予想できないのでしょうか?